アメリカ生まれの作業ズボンが、日本で育った物語
「国産ジーンズって聞くけど、普通のジーンズと何が違うの?」
Xで触れた内容を、ここでは少しだけ深掘りしてみます。
ジーンズは、アメリカで鉱夫用にポケットの角などをリベット(金属の鋲)で補強した丈夫な作業ズボンとして、1873年にリーバイスが作ったのが始まりです。 pic.twitter.com/ZcEPi6emMp
— Beyond 好奇心 (@beyondkoukishin) November 26, 2025
1. そもそもジーンズってどんな服?
まず整理しておきたいのが言葉の使い方です。
- デニム … 厚手の綿の綾織り生地(布の名前)
- ジーンズ … そのデニム生地で作られたズボン(服の名前)
つまり「ジーンズ生地」というより、正確には「デニム生地で作ったジーンズ」なんですね。
現代のジーンズの“元祖”は、
アメリカ・サンフランシスコの商人リーバイ・ストラウスと、仕立て職人ジェイコブ・デイビスが考案したリベット補強付きの作業ズボンです。

2人は1873年5月20日に、ポケットの開口部などを金属リベットで補強する特許を取得しました。これが「ブルージーンズ誕生の日」とされています。
鉱夫や鉄道作業員など、ハードな現場で働く人のための“丈夫なワークパンツ”として生まれたのが、今私たちが履いているジーンズのルーツです。
2. ジーンズが日本にやって来たのはいつ?
日本にジーンズが本格的に入ってきたのは、第二次世界大戦後です。
- 戦後まもなく、進駐軍のアメリカ兵(GI)が履いていたジーンズや古着が、上野のアメ横などで出回るようになります。
- 物資不足の時代、米軍払い下げ衣料や中古ジーンズは「実用的で丈夫な服」として重宝されました。
やがて、輸入された新品のアメリカ製ジーンズも販売されますが、
- 生地が固い
- 洗うと縮む・色落ちする
- 価格が高い
といった理由から、日本人の体型や暮らしにはやや合いにくい部分もありました。
「それなら、日本人向けのジーンズを自分たちで作ろう」
──ここから、日本独自のジーンズづくりが始まります。
3. 1960年代、「国産ジーンズ」の誕生

1961年:EDWIN、国産ブランドとして始動
戦後に中古ジーンズの輸入・販売をしていた常見米八商店は、
「もっと日本人の体型に合うジーンズを作りたい」と考え、自社での製造に乗り出します。
- “DENIM”を並べ替えた名前 EDWIN(エドウィン) をブランド名とし、
- 1961年に日本発のジーンズブランドとしてスタート。
ワンウォッシュ加工やストーンウォッシュなど、履きやすさを重視した技術も次々と開発し、のちに国内シェアトップを獲得するまでになります。
1963年:CANTON、日本初の国産ジーンズブランド
一方で、東京の商社・大石貿易は、アメリカのデニムメーカー「CANTON COTTON MILLS」から生地を輸入し、「CANTON(キャントン)」というブランド名でジーンズを発売します。
このCANTONは、「日本初の本格国産ジーンズブランド」と紹介されることが多いブランドです。
当時の日本人にとっては珍しかった“濃紺でパリッとした生デニム”のジーンズで、短い期間ながら、のちの国産ジーンズ文化に大きな影響を与えました。
1965年:児島で「国産ジーンズ第一号」が縫われる
そして、岡山県倉敷市児島。
江戸時代から繊維産業で栄えてきたこの地域で、学生服メーカーだったマルオ被服(のちのBIG JOHN)が、アメリカ製デニムを使ったジーンズの縫製に挑戦します。
- 1965年、日本で初めて国内で縫製されたジーンズが児島で誕生。
この出来事をきっかけに、児島は「国産ジーンズ発祥の地」と呼ばれるようになりました。
CANTONのようなブランドの登場と、児島の縫製メーカーの技術が組み合わさって、
「日本人のために日本で作るジーンズ」=国産ジーンズが育っていったわけです。
4. 「国産ジーンズ」とは何を指すのか
厳密な法律上の定義があるわけではありませんが、
一般的に「国産ジーンズ」と言うと、次のようなイメージで使われることが多いです。
- 生地(デニム)を日本国内の機屋で織っている
- 縫製・加工(色落ち加工、仕上げなど)も日本の工場
- 企画・ブランドも日本発
※機屋(はたや)…糸を織って布にする織物工場のこと。
全部を日本で行っているジーンズを「完全国産」と呼ぶこともありますが、
実際には
- 生地は海外製だが、縫製・加工は日本
- 生地も縫製も日本だが、一部パーツは海外製
など、いくつかのパターンが存在します。
そのため、ファンのあいだでは「どこまでを国産と呼ぶか」よりも、「日本の技術や感性がどこまで詰まっているか」を重視して語られることが多いです。
5. 岡山・児島が「ジーンズの聖地」と呼ばれる理由

国産ジーンズの話になると、必ず出てくる地名が岡山県倉敷市児島です。
- 江戸時代から綿花栽培と織物生産で栄えた“繊維の町”
- 学生服や作業服の産地として技術を蓄積
- そこに戦後のジーンズ文化が重なり、ジーンズ産業へ転換していきました。
今では、
児島ジーンズストリート(ジーンズショップが並ぶ通り)



写真提供:倉敷市観光情報発信協議会
ジーンズミュージアム&ヴィレッジ(ベティスミスによる博物館・体験施設)



写真提供:倉敷市観光情報発信協議会

など、世界中からデニム好きが訪れる観光地にもなっています。
6. 代表的な国産ジーンズブランドたち
ここでは、Xで挙げたブランドを中心に、ごく簡単にだけ紹介しておきます。
① 老舗・全国的ブランド
EDWIN(エドウィン)
1961年に生まれた日本発のジーンズブランド。
ワンウォッシュやストーンウォッシュなど、加工技術でも業界をリードしてきました
BIG JOHN(ビッグジョン)
児島で学生服メーカーからスタートし、1965年に国産ジーンズ第一号を生み出したマルオ被服が前身。児島=ジーンズの町の象徴的存在です。
BOBSON(ボブソン)
同じく岡山発の老舗ブランド。ベルボトムやカラージーンズなど、70年代以降の国産ジーンズブームを支えてきました。
② 国産デニムの本格派ブランド
児島ジーンズ(KOJIMA GENES)
ワークテイストのデザインと、タフな作りが持ち味。
比較的手に取りやすい価格帯で、国産らしい一本を試したい人にも人気。
桃太郎ジーンズ(MOMOTARO JEANS)
児島発。特濃インディゴやバックポケットの二本ラインなど、ディテールにこだわった本格派。
JAPAN BLUE JEANS
同じく児島発で、デニム生地メーカーが手がけるブランド。糸や染めからこだわった“生地のプロ”ならではのジーンズが特徴です。
FULLCOUNT/STUDIO D’ARTISAN などのレプリカ系
1940〜50年代のヴィンテージジーンズを研究し、日本の技術で再構築する「レプリカ・復刻系」として、マニア層に支持されています。
③ 現代的・グローバル志向ブランド
- KURO(クロ)
ミニマルでモード寄りのデザインが持ち味。海外セレクトショップでも取り扱いのあるブランド。 - RESOLUTE(リゾルト)
“毎日履いて育てる一本”というコンセプトで、シルエットを絞った定番モデルだけを展開。履き込み前提のジーンズが好きな人に人気です。 - EVISU(エヴィス)
カモメマークで世界的に知られるブランド。90年代以降の「ジャパンデニム」ブームを海外に広げた存在でもあります。
※ブランドの数は他にもたくさんありますが、
「国産ジーンズってどんな世界?」と眺めるには、このあたりを押さえておくとイメージしやすいと思います。
7. 初めて国産ジーンズを選ぶときのポイント
せっかくなら、一本は「国産ジーンズ」を持ってみたい――
そんなときの選び方を、ざっくり3つだけ。
① シルエットで選ぶ
- 迷ったら「ストレート」か「ややテーパード(裾に向かって少し細くなる)」
- 細すぎるスキニーより、長く履きやすく失敗しにくいです。
② 生地の厚さ(オンス)で選ぶ
- 初心者:12〜14オンス前後の標準〜やや厚手
- 真冬重視・ガチ勢:15オンス以上のヘビーオンス
厚いほど育てがいはありますが、夏はかなり暑いのでご注意を。
③ 色と加工で選ぶ
- 色落ちを楽しみたい人:ワンウォッシュ〜濃紺の生デニム寄り
- すぐに馴染ませたい人:あらかじめ少し色落ち加工された「Used加工」もの
「育てる楽しみ」を味わいたいか、「買った日からラクに履きたいか」で決めると選びやすいです。
8. おわりに:国産ジーンズは“物語付きの一本”

ジーンズはもともと、「鉱夫のための丈夫な作業ズボン」から始まり、日本では「戦後の古着」から「国産ブランド」へと育った服です。
国産ジーンズの一本には、
- アメリカで生まれたワークウェアの歴史
- 児島や岡山の繊維産業の積み重ね
- 各ブランドの職人のこだわり
といった、たくさんの物語が縫い込まれています。
私は児島ジーンズが好きですが、
いろんなブランドを見比べてみると、
「同じジーンズなのに、こんなに表情が違うんだ」
という発見があって面白いです。
この記事を読んだついでに、
あなたもぜひ「国産ならではの一本」を探してみてください。
履き込むほどに、自分だけの“相棒”になってくれるはずです。




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